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コンケーブの話

近年、サーフボードのボトムデザインの主流は何と言ってもコンケーブだろう。
カテゴリーを問わずほとんどのボードに何らかのかたちでコンケーブが施されている。
とくにショートボードでは年々過激になるマニューバーを求め、選手はより高いボードスピードとクイックなコントロール性を要求する。
その結果、ボードはますます小さくなり、その小さくなったボリュームを補うためのコンケーブはどうしても不可欠なデザインとなってしまった。

コンケーブ自体はVボトムなどと同様に古くから存在し、決して新しいデザインではない。
ただ、その配置や組み合わせによってさまざまなバリエーションを持ち、複雑で非常に奥の深いデザインである。

サーフボードがライダーの重量を支えている力は浮力と揚力だ。
浮力はサーフボードが止まっていても走っていても変化しない。
これに対し揚力は止まっているときはゼロだが、走り出すとその大きさは速度の2乗に比例して増大する。
サーフボードは比較的ボードスピードが遅いとき(パドルやテイクオフ時)は浮力に支配されている。
その後、ボードが走ることにより揚力が発生し、ボードスピードが十分速くなったときにはライダーのほとんどの重量をボトム面からの揚力だけで支えることとなる。

この揚力の発生に非常に大きな影響を及ぼすのがコンケーブなどのボトム面の形状だ。
先ほど述べたように、浮力と違って揚力はボードが走ることによって初めて生み出される動的な力のため、シェープルームの中だけではなかなか開発や分析をすることが難しい。
しかも、その揚力はボードスピードによって大きく変化してしまうため、ボードのコントロール性を維持するのが非常に難しく、ボトムのデザインにはコンケーブの的確な配置が求められる。

ライダーやシェイパーが実際のテストボードで波に乗り、ボードがプレーニングしている限られた時間の中で得られる感覚的な情報が非常に重要なものとなる。

私の場合、コンケーブデザインにおける基本的な理論は80年代から90年代にかけてのウインドサーフィンの開発時に得られた数々のデータがベースとなっている。
もう30年ほど前の話になるが、当時、新しいスポーツだったウインドサーフィンのボードシェイプを担当するのは、ほとんどがサーフボードのシェイパーだった。
ディックブルーワー、ジェリーロペス、ジミールイスなど私の尊敬するシェイパーたちはみんなウインドサーフィンの世界でもエキスパートで、それぞれ素晴らしいシェイプデザインを供給していた。

サーフィンの3~5倍の速度ではしるウインドサーフィンはサーフボードの開発に貴重なデータをフィードバックしてくれる。
私はセイリングしている時、50Km近い速度で走るボードの足元の引き波ばかり見ていた。
ボトムへの水のエントリーとリリース、ボードにロールを加えた時の水流の微妙な変化、ターン時のレールの入り方やテールの沈みぐあい。
こんなに間近に見ることのできる方法は今までには存在しなかった。
自分専用の最高の水流実験装置を手に入れた気分だった。

サーファーとして、楽しみでウインドサーフィンにハマッていたはずがいつの間にかシェイパーとしてのめりこんでいる自分に気がつく。
私は幸運にもウインドサーフィンの名門Sailboards Mauiをシェイプするチャンスに恵まれ、当時、年間約200本のペースでセイルボードをシェイプすることになる。
セイルボードはボードスピードが高いため、ほとんどのボードのボトムに何らかの形でコンケーブデザインを組み込む必要があった。
シングルコンケーブ、ダブルコンケーブ、トライコンケーブ、クアトロコンケーブ、スロットコンケーブ、Vコンケーブ、あらゆるコンケーブをテストした。

鈴木啓三郎プロがスペインのタリファで日本のスピード記録を更新

ウインドサーフィンの中にスピードボードというカテゴリーがある。
長さ500mの平水面を何秒で走り抜けられるかという単純な競技だ。
80年代後半にジミールイスのシェイプしたスピードボードがヨットの持っていた世界記録を塗り替えたのをきっかけにウインドサーフィンは世界中でスピード記録を競い合うようになる。
この、ただひたすら速くまっすぐに走るという純粋な競技に私は強く引かれることになる。
ボードのデザイナーとしての能力を本当に試せるような気がしたのだ。
500m,のコースの中にはいたるところにブローホールと呼ばれる風の弱い場所が存在する。
そんな場所でも高いスピードを維持できるだけの抵抗が少なく効率の良いボトム、揚力抗力比が重要なカギとなる。
ただ純粋に、スピードだけを理論し、効率だけを求め、ハイドロプレーンやハイドロフォイルなどの可能性も徹底的に勉強した。

1995年 動力を使わない水上クラフトとして日本最速の記録を樹立

しかし、ここでも重要なのはコントロール性だった。
サーフィンと違って平らな海面をまっすぐ走るだけなので、理屈的にはロッカーもアウトラインも直線で良さそうなものだが、海面は真っ平らではなく、かすかなゆがみやバンプが存在する。
まっすぐに走るためには海面に合わせて微妙にコースを修正しながら走る必要があった。
しかも時速80kmの速度では、ちょっとしたギャップにエッジが反応しスピンアウトにつながってしまう。
ただ速いだけではダメで、正確なコントロール性を持ち、しかも乗りやすいボードをデザインする必要があった。
この微妙なコントロールを可能にするために、ほんの少しだけつけたVボトムやロッカー、少しだけ内側にタックさせたエッジなどを加えた。
本来の速く走るという目的とは相反するコンセプトを微妙に取り入れることでボードのスピードは大幅にアップした。
高速での正確なコントロール性は非常に重要な要素だ。
どんなに新しいコンセプトやデザインであってもそれを操るのは人間で、ライダーが扱いやすくコントロールしやすいものでなければその性能を引き出すことはできない。

このスピードボードの開発で得られた情報は、現在でも私のサーフボードにおけるコンケーブ理論の重要な基礎となっている。

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