CONCAVE

名723E~1

SINGLE CONCAVE

近年、サーフボードのボトムデザインの主流は何と言ってもコンケーブだろう。
カテゴリーを問わずほとんどのボードに何らかのかたちでコンケーブが施されている。
とくにショートボードでは年々過激になるマニューバーを求め、選手はより高いボードスピードとクイックなコントロール性を要求する。
その結果、ボードはますます小さくなり、その小さくなったボリュームを補うためのコンケーブはどうしても不可欠なデザインとなってしまった。
コンケーブ自体はVボトムなどと同様に古くから存在し、決して新しいデザインではない。
ただ、その配置や組み合わせによってさまざまなバリエーションを持ち、複雑で非常に奥の深いデザインである。

 

o0637035611251761610

W-CONCAVE

サーフボードがライダーの重量を支えている力は浮力と揚力だ。
浮力はサーフボードが止まっていても走っていても変化しない。
これに対し揚力は止まっているときはゼロだが、走り出すとその大きさは速度の2乗に比例して増大する。
サーフボードは比較的ボードスピードが遅いとき(パドルやテイクオフ時)は浮力に支配されている。
その後、ボードが走ることにより揚力が発生し、ボードスピードが十分速くなったときにはライダーのほとんどの重量をボトム面からの揚力だけで支えることとなる。
この揚力の発生に非常に大きな影響を及ぼすのがコンケーブなどのボトム面の形状だ。
先ほど述べたように、浮力と違って、揚力はボードが走ることによって初めて生み出される動的な力のためシェープルームの中だけではなかなか開発や分析をすることが難しい。
しかも、その揚力はボードスピードによって大きく変化してしまうため、ボードのコントロール性を維持するのが非常に難しく、ボトムのデザインにはコンケーブの的確な配置が求められる。
実際のテストボードで波に乗り、ボードがプレーニングしている限られた時間の中で得られる情報が非常に重要なものとなる。

keizaburo1

1995 鈴木啓三郎プロが日本のスピード記録を更新

私の場合、コンケーブデザインにおける基本的な理論は80年代から90年代にかけてのウインドサーフィンの開発時に得られた数々のデータがベースとなっている。
もう30年近く前の話になるが、当時、新しいスポーツだったウインドサーフィンのボードシェイプを担当するのは、ほとんどがサーフボードのシェイパーだった。
ディックブルーワー、ジェリーロペス、ジミールイスなど私の尊敬するシェイパーたちはみんなウインドサーフィンの世界でもエキスパートで、それぞれ素晴らしいシェイプデザインを供給していた。

サーフボードの3~5倍の速度ではしるセイルボードはサーフボードの開発に貴重なデータをフィードバックしてくれる。
私はセイリングしている時、50Km近い速度で走るボードの足元の引き波ばかり見ていた。
ボトムへの水のエントリーとリリース、ボードにロールを加えた時の水流の微妙な変化。
こんなに間近に、しかも長時間、水流の変化を見ることのできる方法は今までには存在しなかった。

自分専用の最高の水流実験装置を手に入れた気分だった。
サーファーとして、楽しみでウインドサーフィンにハマッていたはずが、いつの間にかシェイパーとしてのめりこんでいる自分に気がつく。
私は幸運にも、ウインドサーフィンの名門 Sailboards Maui をシェイプするチャンスに恵まれ、当時、年間200本のペースでセイルボードをシェイプすることになる。
セイルボードには、ボードスピードを高めるため、ほとんどのボードのボトムに何らかの形でコンケーブデザインを組み込む必要があった。
シングルコンケーブ、ダブルコンケーブ、トライコンケーブ、クアトロコンケーブ、スロットコンケーブ、Vコンケーブ、あらゆるコンケーブをテストした。

ウインドサーフィンの中にスピードトライアルというカテゴリーがある。
長さ500mの平水面を何秒で走り抜けられるかという単純な競技だ。
80年代後半にジミールイスのシェープしたスピードボードが世界記録を塗り替えるのをきっかけに世界中でスピード記録を競い合うようになる。
この、ただひたすら速く走るという純粋な競技に私は強く引かれることになる。
ボードのデザイナーとしての能力を本当に試せるような気がしたのだ。

500m,のコースの中にはいたるところにブローホールと呼ばれる風の弱い場所が存在する。
そんな場所でも高いスピードを維持できるだけの抵抗が少なく効率の良いボトム、揚力抗力比が重要なカギとなる。
ただ純粋に、スピードだけを理論し、効率だけを求め、ハイドロプレーンやハイドロフォイルなども徹底的に勉強した。

しかし、ここでも重要なのはコントロール性だった。
平水面とはいえ時速80kmの速度では、ちょっとしたギャップにエッジが反応しスピンアウトにつながってしまう。
テールを広くすると加速性は良くなるのだが、速度が上がるにつれて発生する大きな揚力を制御できなくなってしまう。
ストレートなロッカーは効率が良いのだが、やはり速度が上がると水面の細かなギャップを吸収するのが困難であった。
限りなくストレートに近いのだが、ほんの少しだけ緩やかにカーブしたロッカーがベストだった。
ただ速いだけではダメで、正確なコントロール性を持ち、しかも乗りやすいボードをデザインする必要があった。
微妙なコントロールを可能にするために、ほんの少しだけつけたVボトムやロッカー。
本来の速く走るという目的とは相反するコンセプトを微妙に取り入れることでボードのスピードは大幅にアップした。

このスピードボードの開発で得られた情報は、現在でも私のサーフボードにおけるコンケーブ理論の重要な基礎となっている。