「EPSの浮力が大きいのは、中に空気がたくさん入っているから」
こんな話を聞いたことはありませんか?
もしアルキメデスが耳にしたら、腰を抜かしてしまいそうな内容ですが、今回はそのEPSの浮力について考えてみたいと思います。
まず、サーフボードの浮力を計算してみましょう。
アルキメデスの原理によれば、浮力は次の式で表されます。
F = ρVg
- F:浮力
- ρ:ボードを浮かせている海水の密度
- V:ボードの体積
- g:重力加速度
地球上では重力加速度 g は一定なので、この式から分かるように、浮力は ボードの体積 と 浮かせている液体の密度 で決まります。
海水の密度は場所や温度によって多少変化しますが、ほぼ一定と考えて問題ありません。
つまり、浮力の大きさは サーフボードの体積だけ で決まるのです。
したがって、サーフボードの内部に 空気 や ヘリウム、あるいは 水素ガス が入っていたとしても、浮力には影響しません。
しかし、実際にはサーフボードの自重による重力が浮力と相殺されるため、EPSで軽量化された分だけ 浮きやすく なります。
例えば、EPSで 体積30Lのボード を作ると、PU(ポリウレタン)よりも 約600g 軽くなります。
海水の密度を簡単のため 1g/cm³(= 1kg/L)とすると、30Lのボードの浮力は 30kg になります。
軽量化による浮力の増加率を計算すると、
0.6kg ÷ 30kg = 0.02 = 2%
意外なことに、EPSで同じサイズのボードを作っても、浮力は わずか2% しか増えていないのです。
しかし、実際にEPSのサーフボードに乗ったときの感触は、明らかに別次元のものです。
「たった2%の違い」とは到底思えないほど、大きな変化を感じる人がほとんどでしょう。
では、この感覚の違いはどこから来るのでしょうか?
その要因は、質量(慣性)の違い にあると考えられます。
例えば、PU製の体積30Lのサーフボードの質量が3kgだとすると、EPS製の同じボードは約600g軽量になります。
この600gの差は、次の計算から20%の質量差に相当します。
0.6kg ÷ 3kg = 0.2 = 20%
ニュートンの運動方程式(運動の第2法則)は、次の式で表されます。
F = ma
- F:力
- m:質量
- a:加速度
この式によれば、質量 m と 加速度 a は反比例の関係にあります。
つまり、20%軽いEPSのサーフボードは、同じ力 F が加わったとき、20%大きな加速度で動きます。
その結果、わずかな力でもボードが大きく反応し、動きが機敏になります。
この特性が不安定さを生み出し、感覚的に「ふわふわする」乗り心地につながるのです。
これこそが、
「EPSの浮力が大きいのは、中にたくさん空気が入っているからだよ」
という誤解を生む、本当の理由なのかもしれません。