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EPSの長所と短所

サーフボードの芯材として使われるフォームは主に2種類あります。
一般的なのはPU(ウレタンフォーム)で、ほとんどのサーフボードはこれをポリエステル樹脂でラミネートする製法をとっています。
もう一つはEPS(発泡スチロール)を芯材に使ったもので、ラミネートにはエポキシ樹脂を使っています。

フォーム(芯材)の強度
ひと昔前までのEPSはとても弱く、セルの基本なっているビーズどうしの融着もいい加減で、そのままの標準ラミネートではとても耐えられないものばかりでした。
そのため、シェイプの段階で表面に硬質ウレタンなどをバキューム圧着してからラミネートする製法が主流でした。

現在のサーフボードに使われているEPSは非常に良くなっています。
安定したセルを持ち、目的に合わせて発泡密度を選べば、PUとほとんど変わらない強度のフォームが簡単に手に入ります。

ラミネートの強度
EPSのラミネートに使われるエポキシ樹脂は、PUで使われているポリエステル樹脂と比べると、工業的に非常に優れています。
強度試験のデータでは、ポリエステル樹脂の2倍以上の数値を持つ項目もいくつかあります。
もちろん、これは樹脂単体で計測した力学的な数値なので、単純にサーフボードが2倍強いという意味にはなりませんが、実際にポリエステルと同量のガラスクロスを使ってラミネートすると、かなり丈夫なボードができあがります。

重量の違い
EPSとPUのボードのラミネートの部分には、重量の違いはほとんどありません。
したがって、これらのサーフボードの重量の違いは、ほとんどすべて芯材であるフォームの重量(比重)の違いだと言えます。
EPSとPUの比重(単位体積あたりの重量)の違いはとても大きく、ボードの体積が増えるに従ってその重量の差はどんどん大きなものとなって行きます。
実際には体積の大きなボードほどEPSの比重の恩恵を受けるので、ショートボードよりロングボード、ロングよりSUPと、ボードが大きくなるにつれて軽さが際立ってきます。

現在、SUPに使われているフォームがほとんどEPSなのはこの理由からです。

EPSの長所と短所
では実際にサーフボードをEPSでつくると、どんなメリットとディメリットがあるかをサーフボードのタイプ別にお話します。
EPSについては、たくさんのサーフボードメーカーがそれぞれ違った評価をしているので、あくまでもOGM社の話ということで聞いてください。

 

コンペティションボード GHDnobu best現在OGMの標準的なショートボード(コンペボード)で、体重65kgくらいまでのサーファーのボードをPUでつくると、重量は2.2~2.8kgくらいです。
このクラスのサーフボードをEPSで軽くつくると、1.8~2.0kgくらいで仕上げることが可能です。 でも、軽すぎるボードに対して、ライダーの反応はイマイチです。
「ターンが安定しない」 「エアリアルの着水の時、ボードが沈まずに波から弾かれてしまう」 だいたいこのように、良くない意見が帰ってきます。

では、ガラスクロスを増やしラミネートを厚くして、重量をPUと同程度まで増やしたらどうでしょうか? とてつもなく丈夫なサーフボードができるのですが、硬すぎるボードはどうもコントロールが難しいようです。
「小さな波だとスピードが出て良いのだが、大きい波だとターンが難しい」 ライダーによって微妙に表現は違いますが、おおむねこんな感じの評価が多いです。
ライダーの好みでまちまちなので、はっきりとは言い切れないのですが、OGMでは5’8″以下のサイズのボードではPUが主流です。
そして、5’9″あたりから大きくなるにしたがってEPSでのオーダーが少しづつ増えて来て、全体としてのEPSの割合は25%程度となります。

大きめのコンペティションボード MC-1MC-1 身体の大きな人のボードをPUで作るとき、30ℓを超えるボードや6フィートを超えるボードでは、完成した重量が3kgを大きく超えてきます。
出来上がったボードを持つと、どうしてもズッシリとした感じの重い仕上がりで、試合向きのボードというイメージではありません。
このような時、EPSは非常に有効な素材となります。
EPSはテイクオフが早く、取り回しが軽いため、ボードの大きさを感じません。
また、EPSのボードが硬いという評価も、このクラスのボードを使うサーファーはガッチリとした体格が多いせいか、ほとんど聞かなくなります。
OGMではこのクラスのコンペボードのほとんどがEPSでのオーダーです。

また、サーフィンする機会の少ない人が、早いテイクオフやスピードを求め、自分の体格よりも大きめのボードを選ぶ場合にもEPSは有効となります。
ボードの重量がPUと比べて非常に軽くなっているので大きめのボードであっても、乗ってからのパフォーマンスにあまり影響を与えず、実際のその大きさを感じさせません。

 

EPSロングボード

現在のロングボードコンテストは主にクラシックマニューバーを中心としており、そのために以前ほどEPSの使用比率は高くありません。
しかし、EPSとPUの重量には1.5〜2.5kgの差があり、高いパフォーマンスを求めるロングボーダーたちにとっては、EPSはなお根強い人気を持っています。
実際、OGMでは約40%のロングボーダーがEPSを選択しています。

一方、ミッドレングスボードやクラシックロングボードは、クルーズ性能を重視しており、パフォーマンスよりもその乗り心地が売りです。
サーフボードの軽さはあまり重要ではありませんが、EPSは一般的に艶のある仕上げには向かないことがあります。
もし美しい仕上がりを求めるのであれば、PUボードを選ぶことをおすすめします。
深みのあるティントカラーやマーブル模様などは、PUボードとポリエステル樹脂の組み合わせの得意とするところです。
個性豊かなラミネートや仕上げ、カラーセンスにこだわった美しいPUボードを、カスタムオーダーすることも可能です。
このカテゴリーのOGMサーフボードは、ほとんどがPU素材を使用して制作されています。

 

 

 

EPSの浮力についての考察

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「EPSの浮力が大きいのは中に空気がたくさん入っているからだよ」
こんな話、聞いたことないですか?
アルキメデスが聞いたら腰を抜かしそうなレベルの話ですが、今回は、そのEPSの浮力について考えてみたいと思います。

まずは、サーフボードの浮力の大きさを計算してみます。
アルキメデスの原理から、浮力は次の式で表されます。
F=-ρVg
F:浮力
ρ:ボードを浮かせている海水などの密度
V:ボードの体積
g::重力加速度
重力加速度gは、この地球上では一定なので、上式からわかるように、浮力はボードの体積とそれを浮かせている海水などの比重で決まります。
海水の比重についても、厳密には場所や温度によって少し変化しますが、だいたい何処でもいつでも一定だと考えて問題無いでしょう。
したがって浮力の大きさは、サーフボードの体積だけで決まります。
つまり、サーフボードの中に空気やヘリウム、たとえ水素ガスが入っていたとしても浮力は何も変わらないということです。

実際には、サーフボードの自重分に当たる重力が相殺されるので、EPSで軽く作られた分だけ浮力が増えることになります。
たとえばEPSで体積30ℓ程度のボードを作ると、重量はPUより600グラムほど軽く作ることができます。
海水の密度を簡単のため1とすると、30ℓのボードの浮力は30kgとなります。
増加した浮力の割合を計算すると
0.6kg÷30kg=0.02=2%
ちょっと意外な結果になりました。
EPSで同じサイズのボードを作っても浮力は2%程度しか増えていないということです。

しかし、実際にEPSのサーフボードに乗った感触の違いは明らかに別次元のもので、とても2%の違いではないと思う人ばかりだと思います。
これは何処から来るのでしょうか?
このことは、質量(慣性)の違いによるものだと推測できます。
PUで作った体積30ℓのサーフボードの質量が3kgだとすると、次の式から600グラムの質量の違いは20%です。
0.6kg÷30kg=0.2=20%
ニュートンの運動方程式(運動の第2法則)
F=max__ 1
F:力
m:質量
a:加速度
この式によれば、慣性の大きさを表す質量mと加速度aは逆比例の関係にあります。
つまり20%軽いサーフボードは、同じ力Fが加わったとき20%大きな加速度で運動します。
これは、少しの力が加わっただけでボードが大きく反応するということです。
このことが不安定さを生み、感覚的なふわふわ感となり、

「EPSの浮力が大きいのは中にたくさん空気が入っているからだよ」
と言わせている本当の理由だと思われます。

では、実際に役に立つ話として、
EPSでサーフボードを作った場合どのくらい小さく作れば良いかというと、
単純に浮力だけをそろえるのであれば、水の比重を1とすると、0.6ℓだけボードの体積を減らせば良いので、マシンシェイプの設計プログラムでシミュレートすると、だいたいこのあたりのサイズのボードで約1.6mm(1/16インチ)薄くシェイプすればよい計算になります。

また、幅と厚さを同じにして長さを短くするのであれば、ボードの形にもよりますが、4cm(1.5インチ)くらい短くすれば良さそうです。

ロングボードの場合ですと、私のシェイプする9’0”クラスのPerformerは60ℓくらいの体積があって、EPSで作ると約1.2kg程軽く仕上げることができます。
これで、浮力をそろえるため1.2ℓ体積の少ないボードをシミュレートすると、やはり1.6mm程度薄くシェイプすれば良いという結果になります。
ロングの場合、レギュレーションがあるので、長さを短くするわけにはいきません。
同じ厚さで、幅だけを変化させて1.2ℓの体積を調整しようとすると、1.2cmくらい細くすれば良い計算になります。

もう一つオマケで、最近、話題のウエイブプールですが、真水のプールではサーフボードの浮力が減少します。
海水1kgには約30gの塩分が溶けていて、
水温24℃での比重は約1.024です。
つまり、同じボードでも真水のプールの中では、浮力が海水より約2.4%減少していることになります。
さっき計算したEPSの浮力の増加分とあまり変わらない数値ですね。
つまり、いつも乗っているPUのボードとまったく同じ大きさでEPSのボードを作れば、真水のウエイブプールでの浮力の減少分をちょうど補ってくれる計算となり、あんがい調子良く働いてくれるのではないでしょうか?