ハンドルのあそび

「ハンドルのあそび」って聞いたことありますか?
ハンドルを左右に軽く回した時、タイヤが動きだすまでの余裕の部分のことで、これがあることによってハンドルを固定していても、タイヤが一定の範囲内で左右に自由に動き、クルマがまっすぐに走り、運転しやすくなるそうです。
一見あそびなど無い方がタイヤの向きがしっかりと固定されるのでまっすぐに走れそうな気がしますが、路面は完全に平たんではないので、小さな凹凸にタイヤがいちいち反応してしまいクルマは左右に蛇行してしまうようです。
また、ほんの少しハンドルを動かしただけでもすぐにクルマが反応してしまうので、ふらついて運転は非常に神経質なものになってしまいます。
ハンドルにあそびがあることで自動的にタイヤの向きが変わり、路面の凹凸を吸収し、クルマは慣性の法則に従ってまっすぐに走るのだそうです。

これと良く似たことがサーフボードの世界にもあります。
たとえば現在ほとんどのサーフボードに見られるコンケーブですが、OGMでは図2のようにボードの前寄りのレール付近の部分には入っていません。
もしコンケーブの効率だけを考えるのであれば、図1の断面のようにレールぎりぎりまでコンケーブを施したほうがボードスピードは上がりそうです。
しかし、
海面は平坦ではなく、ボトムターンやオフザリップ、スラッシュなどサーフボードはさまざまな使われ方をするため、ライディング中のボードのボトムに水が進入する角度はまっすぐ前からではないことの方が多いのです。
あまりレールの際までコンケーブを施しても結果的にレールやエッジがシャープになりすぎてボードをコントロールするのが難しくなり、最終的にはスピードの出せないサーフボードになってしまいます。

似たような考えはテール付近のエッジの付け方にも現れます。
サーフボードのグリップだけを考えるのであれば図3のようにアウトラインの一番外側にエッジを付けることがベストなのかもしれませんが、OGMでは図4の断面のようにレールをタックさせ、何ミリか内側にエッジを付けた形を採用しています。
これもテールの沈み過ぎを防ぎ、コントロール性を意識することで生まれたデザインです。

フィンに関しても同じようなことが言えます。
OGMフィンではフォイル(断面)のリーディングエッジ(前縁部)を少し丸く、鈍くしたデザインを取り入れています。
リーディングエッジはフィンに当たった水を圧力面と負圧面とに分ける重要な部分です。
水の抵抗だけを考えれば図5のようにシャープにした方が前方からの抗力が少なくなりボードスピードは上がると思われますが、あまりシャープにしすぎると、進入する水の角度のちょっとした変化で水流が境界層剥離(フィンの表面に沿って水がきれいに流れなくなる状態)を起こしたり、フィンが敏感に反応し過ぎてしまったりして、結果的に失速を起こしやすいデザインとなってしまいます。

誰もが知っているようにサーフボードは動力を持っていません。
動力を持たないサーフボードでスピード性を高めるのはあまり簡単なことではありません。
クルマやジェットスキーでしたらパワーのある大きなエンジンを積めば良いのかも知れませんが、サーフボードは波の斜面からエネルギーを得て走っています。
高いスピードを得るためには波のカールに近いホレたポジションをサーファーがキープする必要があります。

スピードを出すためのデザインは重要ですが、動力を持たないサーフボードがスピードを出すためには、それをサーファーがコントロールできるようにすることも同じように重要なのです。

このようにOGMではサーフボードのいたるところでコントロールをしやすくするコンセプトを取り入れています。
これはスピードを得るためのコンケーブのように、派手で誰にもわかるようなデザインではありません。
今回お話したことは、おしるこにちょっとだけ入れる隠し味の塩みたいなもので、一つ一つは本当に小さなものですが、とても重要なものです。
これらの積みかさねでコントロール性が良く、結果的にスピード性の高いサーフボードが生まれているのです。

サーフボードは1つの要素で言い切れるほど単純ではありません。
コントロール性能はアウトライン、ロッカー、ボリューム、レールフォイルなどの微妙な組み合わせで決まります。
ここがこうなっているからダメだとか、こうなっているから良い、などと言えるような部分的に判断できるものでは無く、すべてが連携した微妙なさじ加減のようなバランスが求められています。

このボードはコンケーブが深いから速いなどと簡単に決めつけないでください。
ボード全体を良く見てラインのつながりやまとまり、ロッカーとアウトラインの調和、レールの形やボリュームなど、美しくて自分が乗りやすいと思えるボードを選ぶことが大切です。
そして何よりも、自分の求めるサーフィンがそのボードでイメージできるかどうかがとても重要です。

あなたは自分に合ったサーフボードに乗っていますか?

 

Gランドに着くと最初にお世話になるこのトラックのハンドルの遊びは1回転半もありました。 橋の上から落ちそうになった記憶があります。