ハンドルのあそび

「ハンドルのあそび」って聞いたことありますか?
ハンドルを左右に軽く回した時、タイヤが動きだすまでの余裕の部分のことで、これがあることによってハンドルを固定していても、タイヤが一定の範囲内で左右に自由に動き、クルマがまっすぐに走り運転しやすくなるのだそうです。
一見あそびなど無い方がタイヤの向きがしっかりと固定されるのでまっすぐに走れそうな気がしますが、路面は完全に平滑ではないので、小さな凹凸にタイヤがいちいち反応してしまいクルマは左右に蛇行してしまうそうです。
また、ほんの少しハンドルを動かしただけですぐにクルマが反応してしまうので、ふらついて運転は非常に神経質なものになります。
ハンドルにあそびがあることで自動的にタイヤの向きが変わり、路面の凹凸を吸収しクルマは慣性の法則に従って直線に走るのだそうです。

これと良く似たことがサーフボードデザインの世界にもあります。
たとえば現在ほとんどのサーフボードに見られるコンケーブですが、よく見ると図のようにセンターから前のレール寄りの部分には入っていないことがあります。
もしコンケーブの効率だけを考えるのであればレールぎりぎりまでコンケーブを施したほうがボードスピードは上がるのかもしれませんが海面は平坦ではありません、しかもボトムターンやオフザリップ、スラッシュなどサーフボードはさまざまな使われ方をするため、ライディング中、ボードのボトムに水が進入する角度は真っ直ぐ前からではないことの方が多いのです。
あまりレールの際までコンケーブを施しても結果的にレール(エッジ)がシャープになりすぎてボードをコントロールするのが難しくなり、最終的にはスピードの出せないボードになってしまいます。

似たような考えはテール付近のエッジの立て方にも現れています。
サーフボードのグリップだけを考えるのであればアウトラインの一番外側にエッジを付けることがベストなのかもしれませんが、最近ではレールをタックさせ、何ミリか内側にエッジを施したサーフボードが多く見られるようになってきました。
これもテールの沈み過ぎやコントロール性を意識することで生まれたデザインだと考えられます。

フィンに関してもフォイル(断面)のリーディングエッジ(前縁部)に同じようなデザインの変化が見られます。
リーディングエッジはフィンに当たった水を圧力面と負圧面とに分ける重要な部分です。
水の抵抗を考えればシャープにした方が前方からの抗力が少なくなると思われますが、あまりシャープにしすぎると水流が境界層剥離を起こしやすく、進入する水の角度のちょっとした変化にフィンがシビアに反応し過ぎてしまうため、コントロール性を落ち着かせるためこの部分を少し丸く、鈍くしたものが増えてきています。

動力を持たないサーフボードは波から推進力を得ます。
どこのポジションにボードを持って行けばスピードが得られるのか、どうすればスピードのロス無くターンできるのか、サーフボードのエンジンに当たる部分はすべてコントロールにかかっています。
効率良く波のパワーを手に入れるデザインも重要ですがそのポジションに行くためのコントロール性はさらに重要です。
ロッカーやコンケーブ、水からの揚力と抗力などの理論的な効率と、ライダーが直接感じるコントロール性の両面からサーフボードを考え、シェイパーはさまざまなデザインを模索しています。

サーフボードは1つの要素で言い切れるほど単純ではありません。
ここがこうなっているからダメだとか、こうなっているから良いなどと言えるような部分的に判断できるものでは無く、すべてが連携した微妙なさじ加減のようなバランスが求められるのです。

このボードはコンケーブが深いから速いなどと簡単に決めつけずにボード全体を良く見てラインのつながりやまとまり、ロッカーとアウトラインの調和やレールのボリュームなど、乗りやすそうなボードを選ぶことが大切です。
そして何よりも自分の求めるサーフィンに合っていることが重要です。

今回お話したことは、おしるこにちょっとだけ入れる隠し味の塩のようなもので、一つ一つは本当に小さなものですが、これら一つ一つの積みかさねで確実にスピード性が高く、コントロール性の良いサーフボードが生まれています。

Gランドに着くと最初にお世話になるこのトラックのハンドルの遊びは1回転半もありました。 橋の上から落ちそうになった記憶があります。

コンケーブの話