
ボードはどこで曲がっているのか?
──本当の支点はテールではありません。
サーファーに
「ボードはどこで曲がっていますか?」
と聞くと、多くの人はこう答えます。
「テール。」
確かにターンでは後ろ足でテールを踏み込みます。
だからテールが回転しているように感じます。
しかし実際には、ボードはテールを中心に回っているわけではありません。
ボードは「支点」を中心に向きを変える
物体が向きを変えるときには、必ず回転の中心となる支点があります。
例えば、
どれも支点を中心に回転しています。
サーフボードも同じです。
ターン中には、ボードのある一点が水をしっかりつかみ、その点を中心としてボード全体が向きを変えています。
ただし、ここで一つ注意があります。
サーフボードはコンパスのように、その場で回転しているわけではありません。
実際には常に前へ進みながら向きを変えています。
つまり、前進運動と回転運動が同時に起きているのです。
さらに、この支点は固定された一点ではありません。
ターンの進行や水の流れに応じて少しずつ移動しながら、ボードの向きをコントロールしています。
物理学では、この回転の中心を瞬間回転中心(Instantaneous Center of Rotation:ICR)と呼びます。
少し難しい言葉ですが、「その瞬間だけ存在する回転の中心」という意味です。
サーフボードは前へ進みながら、このICRが絶えず移動することで滑らかにターンしているのです。
支点になるのはレール
では、その支点はどこなのでしょうか。
答えは、
水を最も強くつかんでいるレールです。
レールが水を切り、
横滑りを止めることで、
その部分が水の中で固定されます。
その固定された場所を中心として、
ボード全体が向きを変えていきます。
つまり、
レールが支点を作っているのです。
テールは支点ではない
後ろ足はテールの上にあります。
だから昔から
「テールを踏めば曲がる」
と言われています。
もちろん、この表現は間違いではありません。
しかし正確には、
テールは支点ではなく、支点を作るためにレールへ荷重を伝える場所なのです。
後ろ足で踏み込むと、
テール側のレールが沈み、
レールが水をしっかりとつかみ、
そこで初めて支点が生まれます。
つまり、
踏んでいる場所と、実際に回転している中心は違うのです。
支点は前へも後ろへも移動する
実は支点は常に同じ場所ではありません。
ターンの種類によって変化しています。
カットバック
カットバックでは比較的前寄りのレールが支点になります。
支点が前方へ移動すると、ボード全体の重心は支点から遠くなります。
そのため慣性モーメントが大きくなり、ボードはゆったりと大きな弧を描いて回転します。
伸びのあるカットバックになる理由です。
トップターン
トップターンでは支点はテール寄りへ移動します。
するとボード全体の重心が支点へ近づき、慣性モーメントが小さくなります。
その結果、少ない力で素早く回転できるようになります。
だからトップターンは鋭く、素早い方向転換が可能になるのです。
ロッカーが強いとなぜ曲がるのか
ここでも支点が重要になります。
ロッカーが強いボードは接水長が短くなります。
すると支点そのものが自然にテール寄りへ移動します。
その結果、ボード全体の重心も支点へ近づき、慣性モーメントが小さくなります。
だから少ない力でボードを回転させることができるのです。
つまり、
ロッカーとは、支点の位置をコントロールする設計でもあるのです。
「接水長が短いから曲がる」という説明だけでは、本当の理由は説明できません。
レール形状でも支点は変わる
レール形状も支点の作られ方に大きく影響します。
シャープレール
シャープレールは水をきれいに切ります。
そのため支点がはっきり生まれ、
反応が速く、
切れ味の鋭いターンになります。
ボキシーレール・丸いレール
一方、丸いレールは水を少し逃がします。
支点が曖昧になり、
回転も穏やかになります。
その結果、
ゆったりとしたスムーズなターンになります。
フィンは何をしているのか
ここで勘違いしやすいのがフィンです。
多くの人は、
「フィンがボードを曲げている」
と思っています。
しかし実際には違います。
フィンの役目は、
横へ流れようとするテールを抑え、
レールが作った支点を維持することです。
支点を作る主役はレール。
フィンは、その支点が逃げないよう支える補助役なのです。
だからフィンだけでは曲がれません。
レールが入って初めてフィンも働き始めます。
だから上手い人ほどレールを使う
初心者は、
ボードを無理にひねって曲げようとします。
しかし上級者は違います。
まずレールを水に入れ、
しっかりと支点を作ります。
その支点を中心として、
ボードは自然に向きを変えていきます。
だから力を使わなくても、
大きく、
速く、
そして美しいターンができるのです。
まとめ
ターンで回っているのはテールではありません。
後ろ足で踏み込むことでレールが水をつかみ、そのレールが支点となってボード全体が向きを変えています。
つまり、
「テールで曲がる」のではなく、「レールが支点を作ることで曲がる」のです。
そして、その支点は固定された一点ではなく、ターン中に刻々と位置を変える瞬間回転中心(ICR)として存在しています。
この視点でサーフボードを見ると、
ロッカー、
レール、
アウトライン、
コンケーブ、
フィン配置──
これらすべてが、
「どこに支点を作り、その支点をどう移動させるか」
という、一つの設計思想につながっていることが見えてきます。
サーフボードデザインとは、単に形を作ることではありません。
水の中にどのような支点を作り、その支点をどう動かすかを設計すること。
それこそが、サーフボードデザインの本質なのです。