「残り時間1分!」
「ホワイトの選手乗りました!」
「現在2位のレッドの選手を逆転するために必要なスコアは5.18ポイント!」
ヒート終了間際、ホワイトの逆転のかかったシチュエーション。
そんな時、私たちジャッジが何を考えて採点しているのかを話してみます。
これは、あくまでも私の点数の決め方ですが、おそらく他のジャッジたちも似たようなことを考えてスコアしているだろうと思います。
まず逆転スコアの5.18ポイントですが、アナウンスがずっとガンガン言っているので当然ジャッジの頭の中に入っています。
でも、私は自分がこのスコアを入力したら逆転するとか、しないだとか、あまり深く考えていません。
なぜなら、発表される得点は他のジャッジとのスコアで作られる平均点なので、自分の点数だけでは決まらないからです。
しかも、大きすぎるスコアや小さすぎるスコアは、コンピュータにはじかれてアベレージに反映されなくなるように集計システムが作られています。
この時、私たちジャッジがすべきことはただ一つ、ライディングを冷静に考え、自分の意見としてのスコアを入れることだけです。
ヒートが始まったばかりであれば、わりと広い範囲の中でスコアを決定できますが、ヒート終了間際になって来ると、ジャッジシートの中にはたくさんの確定したスコアが存在しています。
ヒートの後半で新たなライディングを採点するときは、すでに入力し終えた自分の点数ををしっかりと考慮しながら決定しないと試合結果が間違ったものになってしまいます。
上のスコアシートを見ながら先ほどのシチュエーションを考えてみます。
終了間際に乗ったホワイトの選手のライディングが5.0点くらいだろうなと思ったならば、それと比較すべきライディングはイエローの3本目です。
このイエローの5.0点のライドがどのような内容であったかを頭に思い浮かべてみます。
「最初のマニューバはちょっと甘かったけど、2回目のはわりときびしかった。3回目のカットバックも悪くなかったな」
こんな感じです。
それに対して今回乗ったホワイトの6本目のライディングを思い出してみます。
「なかなか良いターンも入っていて、うまくまとまったライディングだったけど、イエローの2個目のマニューバのようなきびしいターンは入っていなかったぞ」
ここで私はこのホワイトのライディングに5.0点以上のスコアを出せないことを認識します。
この段階で、私のスコアシートの中では、ホワイトの逆転は無くなりました。
こんどはその下のスコアであるレッドの4本目の4.5点ライドと比較してみます。
「レッドは、確かきれいなコンビネーションのターンだったけど少しパワーが足りなかったかな、あのライディングよりも今回のホワイトの方が良いサーフィンだと思う」
これで私は、ホワイトに4.5点以上のスコアを入れるべきだという結論に達します。
このように考えると、私がこのホワイトのライディングに対して使えるスコアーは4.6、4.7、4.8、4.9しかありません。
イエローのライディングに近ければ4.8を、レッドに近ければ4.7を、限りなくイエロー近いと思えば4.9を使います。
このようにヒートの後半では、使えるスコアがかなり限定的なものとなってきます。
ジャッジはライディングの雰囲気や思いつきでスコアを決定できません。
スコアは、おたがいに違うと思いますが、他のジャッジたちもそれぞれこんなことを考えながら点数を付けているはずです。
そして、5人のジャッジのうち、上下2人のスコアはカットされ、真ん中3人のスコアの平均点が発表されます。
このときホワイトの選手が逆転するとかしないとかは、ジャッジ個人の意識の中にはありません。
このようにして相対的に決定されているスコアは、1本1本バラバラに思いつくスコアと違って、観ている人たちにとっては、あるときにはきびしく、あるときには甘く感じることが起こるかもしれません。
よく観客の中で、
「今のホワイトのライディングは最低でも5.2ポイントはあったはず、このジャッジの点数はおかしい」
などと意見する人がいますが、
そのライディング1本だけでの判断ではなく、そのヒートの最初から最後まで、すべてのスコアを比較して見てもらえれば、妥当なスコアだったということがわかっていただけると思っています。